漢字と漢方

【漢方】とは、中国から伝来した医術。

【漢方医】とは、漢方による医者。

今回は、「疼痛」(く、む)についてお話いたします。

疼痛(とうつう)という漢字をみてみると、一体、どんな「漢字・漢方」の秘密が隠されているのでしょうか?

中国の言葉は、漢字で構成され、言葉がヒトの思考を産みました。

漢字は中国漢民族の精神的シンボルであり、中国の世界観を表しています。

世界で最も古く、最も生命力の強い文字である漢字のひとつひとつには、古代人の並外れた知恵と文明の発展が凝縮されています。中国の伝統文化の一部である「漢方」は、漢字との関連も非常に強い。

例えば、私たちはよく「疼痛」と言いますが、「漢方」では「疼く」と「痛む」は大きく違います。 

では、何が違うのでしょうか?

疼く(中国語の発音では、téng)

まず、漢字の部首偏旁、つまり、構造を見てみましょう。

 疼(téng)とは、外側が病気の旁で、内側が冬という旁です。
 これはどう理解すればいいのでしょうか。 

「一字一乾坤、一字一世界、一字一宇宙」の如く、漢字ひとつでも「天地」や「世界」を表したり、「宇宙」を表すこともできます。表意文字でもある漢字ひとつでもそれぞれ完全な意味を持ちます。

冬は、冬や寒さに関係すること、病気の旁は、寒すぎる意味になります。 
『黄帝内経』では、「寒が熱に勝てば、骨は痛み、肉は枯れる 」と説明されているのです。

 どういう意味でしょうか? 

『黄帝内経』とは、寒さが暑さを上回り、骨が痛み、肉が枯れるという意味です。 
この感覚は、「寒風が骨身にしみる」という慣用句で表現することができます。

「疼く」とは、過度の冷えによって生じる身体的な不快感のことと理解しています。通常、「疼く」の原因は、外傷、凍傷、風邪など、主に寒さに関係するものが多い。漢方では、「熱には寒、寒には熱」という治療法があります。 

そのため、「疼く」に対しては、冷えを避け、冷えによる不快感を解消するためには温熱療法を利用するのが一般的です。

痛む(中国語の発音では、tòng

漢字の構造を見てみましょう。

「痛む」に旁は病、病の中に「甬」、「甬」は「道」であり、「通路」を意味します。「甬」に「辶」(しんにょう)を加えますと「通る」、「通り」になります。

字の構造からすると、「痛む」という言葉は、道がふさがれているから起こるのだと、このように理解することができます。

そして、この道とは何なのか? 

経絡と、それに付随する血管やリンパなどのさまざまな「チャンネル」として理解することができます。多くの女性が生理痛の悩みを抱えているように、 原因は、冷えや寒さによるものが多く、経絡が滞り、月経血の下降流が悪くなるためです。 

解決策は、経路の疎通にあります。

漢方医学では「澄めば痛まず、痛めば通ず」と言います。


中国文化の奥深さは、受け継がれた文化を記録した文字「漢字」に表れているのがよく分かりますね。


岡村宏章(国立大学法人島根大学 外国語教育センター 准教授)